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血は立ったまま眠っている  2月8日 Bunkamuraシアターコクーン [ジャニーズ出演 舞台]


地下鉄の鉄骨にも
一本の電柱にもながれている血がある
そこで血は立ったまま眠っている


1977年代生まれの私は、1960年という時代も安保闘争も知らない。
もちろん、日本史で学んだある程度の歴史的なことは知ってはいるが、その時代を肌で感じ、体験したわけではありません。
そして、寺山修司が生きて、作品を世に生み出していった時代を知りません。


私たちの世代がその時代を感じることができるのは、演劇や、本、映像・・・・・そのようなものでしか、感じることができません。
その時代の演劇や本が残っているからこそ、今の時代でも感じることができる・・・・ともいえるのかもしれません。


「血は立ったまま眠っている」。
1960年に書かれた寺山修司の処女戯曲。
これを、その時代から別の形で演技界で生きてきた蜷川幸雄さんが演出をし、寺山氏の「天井桟敷」に関わった役者さんたちや若手の役者さんたちと創り上げた今回の舞台。
その時代を体験した人たちを通して、その時代の「熱」を主演の森田剛や私たち世代が追体験しているかのような感じがした。


舞台は競馬場の裏にある港町。
「革命」を目指し、日々「破壊活動」を繰り返す灰男(窪塚洋介)と、灰男に憧れ慕う良(森田剛)。
町の倉庫に住み付く二人のもとに現れる良の姉。詩を書く少女、夏美(寺島しのぶ)。
夏美と恋に落ち、次第に臆病になっていく灰男。
ある日、現れた週刊誌記者にテロ活動を促され、灰男と良の関係に亀裂が生まれる。

一方、町の床屋にたむろする、麻薬中毒のボクサー、朝鮮人ドラマー、売春婦、前科者・・・。
闇取引でリンゴを売り、一儲けしようとする。

物語は、この二つの話が同時にかわるがわる展開していく。


私は寺山氏にも詳しくないし、蜷川さんのお芝居もたくさん見ているわけではありません。
なので、以下、私が感じたこと、思ったことです。
もちろん、ネタバレしています。



「ぼくは自由に恋していたのだ」


「恋」という言葉。
一瞬に燃え上がり、はかなく消えるもの・・・そんな印象がある。


見えない「自由」を追い求めた良。
自分たちの手で「革命」を起こすことで、政治を変え、社会を変えることで、「自由」が手に入ると純粋に信じ続けたのだろう。
そして、「自由」への革命の旗を振る灰男が臆病になったとき、自らがその旗を振ろうとする。


しかし、良は「自由」を手にすることはできなかった。
かわりに手にしたものは「姉の死」と何も変わらないという「現実」。


良を突き動かした「自由」への「恋」。
その感情が「恋」であると気付いた瞬間、響く爆発音。
灰男が起こした(と思われる)爆発音は、良が「自由」を求めた革命は恋のようにはなかく何も変わらない、政治への反発やテロでは何も変わらないという「現実」を知った良の心の爆発音であるとも感じる。


その一方・・・・闇取引に失敗し、刑務所にいこうと集団万引きをしようと乗り込んだ、床屋にたむろしていた男と女はたくましい。
決して、恵まれた環境にいるわけではない彼らは、革命なんかでは「自由」は手に入れられないことを知っているかのようにも思える。とにかくたくましく、生き抜く熱さを感じる。
良が「恋」に恋して手に入れられなかった「自由」を、彼らは自由でない生活の中で、精神的には手にしているようにも思える。


扉はあけっぱなし、なんでもそろっている、まったく現実的ではない、刑務所。
その刑務所にいるびっくりするほど現実的ではない保険屋さん。


そして、そこで、いつものようにたむろする人々。
たわいもない、どうしようもない相談をし、踊り歌う。


「自由」を手にしているように見える彼らも結局は「幻」でしかないのだろうか。


そう思うと、良の恋した「自由」は、やっぱり「恋」でしかなく、手に入ることは決してない幻なのだろう。


とにかく、熱い。
この芝居は熱い。


「なんだかよくわからない」というのも事実。
でも「なんだかよくわからない」得体のしれないパワーを感じる。


パンフレットで寺山氏の世界を「コラージュの世界」と表していたが、まさに「コラージュの世界」。
いろいろなものが混沌と存在する舞台。
だからこそ、生まれてくる得体の知れないパワー。


この良という役。
森田剛。適役だと思う。
贔屓目もあるかもしれないけど、私の予想以上だった。


畳み掛けるようなセリフの膨大な言葉の嵐。


30代の剛は、舞台の上では17歳のテロリスト良として、しっかり存在していた。


イノッチが「イノなき」に書いていた
「アンダーグラウンドで、エンターテイメント」な舞台。
まさに、その通りかな・・と思います。


そして・・・・遠藤ミチロウさんのブルース。
めちゃめちゃかっこよかったです。


もう、冒頭の搬入口から革命の旗を振って走ってくる感じとか、「でた!!蜷川演出!!」みたいな感じで最初っからちょっとニヤっとしちゃったし、金守珍さんもひさびさに見たら、キレキレの演技してたし、マメさんや日野さんが出てくるとワクワクするし・・・。柄本くんは「やっぱこの人は映画のがいいな・・」とか普通に思ったり、蘭さん見てなんか感動したり、六平さんすげーな・・・とか、子供役の大橋くんの飛ばした演技がよかったり・・・・・


もう・・・・・イチイチ、ワクワクしていました・・・・・。


なんだろうね・・・・とにかくパワフルなんだよ。
「圧倒される」というか。


そして・・・・何気に、パンフがおもしろい。
実に興味深い。
ぎっしり、つまってる感じ。蜷川さん、長塚さん対談とかまであるとは。
今、読み込み中です。しばらく楽しめます。


もう1回みたいな・・・・・という気持ちと、1回で十分満足、むしろその余韻をじっくりかみ締めたい・・・その気持ちが今、混ざりあってます。
(といっても、今後観劇の予定はないのですが)。

実に充実した時間でした。
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はるみ

こんにちは!
1回読んで、難解に思いましたが、雑誌で舞台の写真を見て、もう1度読んだら、よく分かり、なんだか自分が観たみたいに伝わってきました。
観てないのに行った気分になりました。得した気分です(^0^)
都さんのレポ、さすがですね~。
by はるみ (2010-02-11 16:02) 

のり

レポありがとうございました。
観ていないから様子は浮かばないけど空気は感じました。
都さんのレポを読んで、二万七千光年の旅を観た時に感じた「結局救援隊なんて来ないのだ」という空虚な気持ちをなぜか思い出しました。
ミチロウの歌が聴きたかったな。
by のり (2010-02-11 20:59) 

都

♪はるみさま

今回は、ほんと濃いですよ。
難解というより深みがある感じ。
とにかく濃くて熱い。そして、アングラだけどエンターテイメント。

もうちょっと、上手に伝えられたらいいんですが・・・。
この作品・・・・言葉にするのが難しい!!

ほんと、「コラージュ」なんですよ。
いろんな要素が混ざりあって、できあがってる感じです。
by (2010-02-11 23:18) 

都

♪のりさま

この作品、書いてみてわかったんですが、かなり文学的、詩的ではあるんですが、ものすごく「視覚的」なんですよね。

空気だけでも・・・・伝わっているんならいいですが、伝えることが難しい!!

「二万七千光年の旅」は私、見てないんですが、たしか、野田秀樹さんですよね。うむ、なるほど。

ミチロウさん、すごかったですわ。
あの歌を誰がやるのか・・・みたあとだだからというのもありますが、あの人しかいない!!!と思います。
by (2010-02-11 23:25) 

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